PART 1 * ストーカー椿は、ベトナムへ飛ぶ

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 斉木健吾。  その人を初めて見かけたのは、ある日の朝の受付だった。  走って入ってくると、受付の前で立ち止まり息を整えていた。椿の横に座っていたチーフの笹川に、寝坊したけど何とか間に合ったと、そんな言葉を掛けていた。首からIDカードを下げている、この会社の人間だ。  大きな口で快活に笑う人だと思った。背が高くて、今時の細身のスーツを着こなす辺りも、女の子にモテそうだ。自分とは住む世界が違うと、椿はいつも通りに心からシャットアウトしたつもりであった。  名前を知ったのは次の日だ。  その日も、隣は笹川だった。 「今日は早いじゃない」  笹川の声掛けに、斉木は受付の前へと歩いてきた。 「ああ、会議なんだよ。昨日はたまたまだ、たまたま」  そう言って少し笑った。  スポーツでもやっているのだろうか。全体的には細いのにがっしりした首と広い肩、長い脚。  こういうモテそうな人は私には縁がない人だと、シャットアウトした斉木の全身を椿は観察していた。  その時見えたIDカードに、斉木健吾と書いてあった。
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