9190人が本棚に入れています
本棚に追加
斉木健吾。
その人を初めて見かけたのは、ある日の朝の受付だった。
走って入ってくると、受付の前で立ち止まり息を整えていた。椿の横に座っていたチーフの笹川に、寝坊したけど何とか間に合ったと、そんな言葉を掛けていた。首からIDカードを下げている、この会社の人間だ。
大きな口で快活に笑う人だと思った。背が高くて、今時の細身のスーツを着こなす辺りも、女の子にモテそうだ。自分とは住む世界が違うと、椿はいつも通りに心からシャットアウトしたつもりであった。
名前を知ったのは次の日だ。
その日も、隣は笹川だった。
「今日は早いじゃない」
笹川の声掛けに、斉木は受付の前へと歩いてきた。
「ああ、会議なんだよ。昨日はたまたまだ、たまたま」
そう言って少し笑った。
スポーツでもやっているのだろうか。全体的には細いのにがっしりした首と広い肩、長い脚。
こういうモテそうな人は私には縁がない人だと、シャットアウトした斉木の全身を椿は観察していた。
その時見えたIDカードに、斉木健吾と書いてあった。
最初のコメントを投稿しよう!