ストーカー椿は、斉木とニアミスする

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「…へぇ…可愛いわね、上手じゃない」 「へ?」  横から手帳を覗きながら、感心したように庸介は呟いた。 「イラスト。あら、私があげたハンカチも書いたの?」  そこには、機内食、ハンカチ、タクシー、アロマオイルの瓶、フォー、チャーゾーが黒のペンで描かれていた。 「絵を描くのが好きで…写真よりもイラストの方が忘れないかと思って…あ!」  椿はにっこり笑うと、ペンを動かし始めた。  五分ぐらいだったか、熱心に描く椿を見つめながら、庸介はビールを空けた。 「出来ました!」  そこには、優しく微笑む庸介の横顔が書いてあった。 「あやめさんです」  恋に落ちる瞬間は、意外に容易く転がっている。  それが長続きするかどうかはさておき、椿が斉木の笑顔に落ちたように、突然に実感するものなのかもしれない。  その優しい自分の似顔絵に、胸がドキリと甘く疼いた。  確かに今、庸介は恋に落ちた。
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