椿の秘密

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椿の秘密

 庸介は困っていた。困り果てていた。  腕の中から顔を上げて椿はじっとこちらを見つめている。  キス・レッスンのあと、シャワーを終えた二人は昨晩と同じようにベッドに入った。  事件…そう、ある意味これは事件に違いないと庸介は思っている。事件はそのベッドの中で起こった。 「あやめさん」 「なに?」  相変わらず椿はTシャツ一枚にショートパンツで庸介の隣にいる。先程のキスの興奮も冷めやらない庸介は、目のやり場に腕のやり場に困り、仰向けに寝転がると腕をお腹の上で組んだ。本当は、抱きしめたかった。 「シャワーで練習してみたんです」 「何を?」 「呼吸しながらキスをすることです」  庸介は驚いて、隣に寝転がる椿に顔を向けた。椿の顔は真剣だ。こいつ…マジか…その話題…引っ張るか。 「…そう……。上手に…出来た…?」 「はい!ただ…その…鼻息が………掛かるのではないかと…それって…嫌なものではないのですか?」  決して、椿はふざけていないし、庸介を誘っているわけでもない。真剣に、大真面目に、自分の手の甲に唇を押し付けて呼吸をしてみたのだ。そうすると、鼻息が掛かる。くすぐったいのではないかと、そう思ったのだ。
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