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茅萱が芹の自宅を訪れたのは、芹が槐に復学を願い出た二日後のことだった。
「花嫁」と言えば聞こえはいいが、その本質は神へと捧げられる生け贄だ。誰かがその役目を負わなければならないと分かっていても、選ばれるのが自分の子でなければいいと願うのが、親というものだろう。
たったひとりの息子を失った両親は、二か月近く経った今も悲しみを引きずっているように見えた。
「お時間を取っていただき、ありがとうございます。急なことですみません」
「いえ、構いません。芹について話があるということでしたが、電話でも申し上げましたように、芹は今……」
「知っています」
茅萱は芹の父親の言葉を遮り、先手を打った。
「百年に一度の夜桜祭のことも、芹君が担うことになった役目も」
「……!」
表向き、病気療養中とされていることは確認済みだ。彼が茅萱に言おうとしたのも、おそらくそういうことだったのだろう。芹は治療のためここにはいない、と。
今の世で、神様に嫁がせたなどと大っぴらに言えるはずがないのだから当然だ。亡くなったことにせず「病気」としたのは、芹が戻ってくるのを期待する気持ちが彼らの中にあったということなのだろう。
「俺はあなた方が祀っている神と交流があり、彼に橋渡しを頼まれて来ました」
「それは、どういう……」
「芹君は、生きています」
茅萱の発言に、目の前の二人が息を呑んだ。
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