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彼の名前を口にした途端、芹の手首が光を放った。手首につけられていた所有の印が、発光し、浮かび上がっていく。
「これ、は……」
大槻が怯んだ隙に、芹は彼の拘束から必死で抜け出した。手首を顔の前に引き寄せると、槐がつけた印が這い上がってくるのが見えた。それはさながら、青白く光る蛇のようだった。
「……槐……?」
光の蛇は芹の腕から離れると、大槻へと襲いかかった。大槻は火の玉のようなものを出して応戦しようとしたが間に合わず、蛇に弾き飛ばされ、後方の本棚に身体を打ちつけて倒れた。
床に倒れた大槻の腕に、手枷のように蛇が巻きつく。動きを一部制限されたせいか、衝突の衝撃のためか、大槻は軽く呻いたきり動かない。
男が倒れたと同時に全身の痺れが取れ、ようやく普通に身体を動かせるようになった芹が、脱がされていた制服の下へと手を伸ばしかけた、そのとき。
「──芹」
扉の開く音と、大好きなひとの声がした。耳に残る、低くて甘い声。芹は制服を抱えて入口へと走った。
すぐに、望み通りのひとが目の前に現れる。髪は黒く、瞳も黒かったが、間違えようがない。芹を見てわずかに表情を和らげた彼に、芹は無意識のうちに微笑みかけた。
「槐……お帰りなさい」
ただいま、と彼は言った。それを聞いた瞬間、既にいろいろと限界だった芹は、ふつりと意識を失った。
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