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「芹!」
力をなくした細い身体を槐が抱き留めると、後ろから追いかけてきていた柊が、叫ぶように芹の名を呼んだ。
「心配ない。気を失っているだけだ」
「……そうか」
室内に入った瞬間に、あやかしの雄の気配を強く感じた。相手を雌に変える、誘惑のための香り。人の身でそれに抗い続けるというのは、決して容易なことではない。
「槐様、柊」
「──茅萱!」
「槐様、早すぎます」
苦笑しつつ、茅萱が図書室の中に入ってくる。芹のもとへと移動する上で、槐はひとり分の道を最短経路で作り出した。槐が通った側から消えていく道を茅萱は通ることができず、新たに道を繋がなくてはならなかった。
芹といるあやかしがどの程度の力を有しているか分からなかったこともあり、槐は力を使い過ぎないよう制御していたのだろうが、結果として茅萱は置いてけぼりを食らうことになってしまった。
「あちらにいるのが、問題のあやかしですか」
「ああ。芹につけていた蛇が上手く噛みついたようだな」
倒れたまま動かないのは、蛇の毒にやられているからだろう。芹の手首に刻んだ所有の印は、槐の分身を術を用いて封じ込めたものだ。力の総量は少ないが、槐と同じ能力を有している。下位なら消滅してもおかしくないが、人形を取れる中位以上のあやかしが分身程度の毒で死に至ることはない。あと数時間もすれば自然と回復するはずだ。
「では一旦木蓮様のところに連れていって、目覚め次第今後の対応を検討するとしますか」
「ああ、任せてもいいか?」
「もちろんです。柊、手伝ってくれる?」
「分かった」
「では、頼んだ」
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