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槐は眠り続ける芹を抱いて、図書室の外に出た。扉の前には、芹の友人だという男がまるで見張りをするように立っていて、芹の顔を見るとほっと息を吐いた。
「よかった。無事で」
「……」
芹は友人だと言い張っていたが、人が好すぎる彼の言うことを鵜呑みにはできないと思っていた。事実、槐に向けられた眼差しは、ただの友人のそれではなかった。
しかし、少なくともこの男は「敵」ではなかった。芹を傷つけるようなことはしなかった。それは槐も認めざるを得なかった。
「芹の友人でいるうちは、特に言うことはないが」
「はい」
「もし、この先芹を傷つけることがあれば、俺は君を消す。芹が何と言おうとも」
「分かってます。……俺だって、芹のことが大事ですから」
槐の知らない芹を知っていて、芹が人として生きていくのを妨げることのない男。無理やり襲うよりなお悪いのは、彼が芹に純粋な好意を示した場合だと槐は理解していた。
芹を手放す気などないが、もし芹が芹自身の意志で、槐から離れていくことを望んだとしたなら。彼をこちら側に縛りつけることは、彼のやわらかな心を殺すことに繋がるだろう。
これまで何かを恐れたことなどない。死とて、ただ消えてなくなるだけのこと。槐にとって大したことではない。ただし、芹だけは。
芹が傷付くこと、芹を失うこと。それらがどうしようもなく槐の胸をざわつかせる。恐れを知って、自分は弱くなったのだろうか。それとも──
槐は芹を抱きかかえたまま校門を出ると、人気の少ないところまで移動してから屋敷へと続く道を作った。
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