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「謝ることはない」
「槐……」
「俺はたとえ芹が他の誰に抱かれようと、今さら手放す気はない」
身体の向きを変えられ、正面から抱き締められると、彼の温かさが伝わってくる。今芹の中を支配している暴力的な熱とは違う、ほんのりとやわらかい、灯火のような温かさだった。
「芹が何と言おうとも、と言いたいところだが──芹が己の意志でここを出ていくというのなら、そのときは受け入れようと思う」
「え……?」
「芹が芹でなくなるよりは、その方がいい」
少し前なら、突き放されていると感じたかもしれない。しかし今の芹には、槐の言葉はとても優しく心に響く。
「僕はあなたの側にいる自分が、いちばん自分らしいと思っています」
そう告げると、槐は芹の顔を見てそっと頬を撫でた。
「そうか」
「はい」
このひとの側にいるときにだけ、生まれる感情がある。出会わなければ知ることのできなかった、たくさんの思いがある。槐がいて、初めて完成する自分がいる。
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