想いの伝え方(四)

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翌朝目を覚ましたとき、芹は自分の部屋の中にいた。身に付けている浴衣は、昨夜着ていたはずのものとは別物で、どうやら槐が着替えさせてくれたらしい。着替えが必要になった経緯について思い出し、あたふたしていると。 「芹!」 朝とは思えないほどの元気さで、青が現れた。灰色狼ではなく、人の姿を取っている彼に勢いよく抱きつかれ、うっと息が詰まる。 「青、苦し……」 「あ。悪い」 背中をぽんぽんと叩いたところで、ようやく長い腕から解放された。まだ、人形になったときの力加減が上手く掴めずにいるようだ。 「おはよう」 「おはよう。蛍に頼まれて、起こしに来た」 「そっか。ありがとう」 普段なら、たとえ昼まで寝ていたところで起こされることはないが、今日は学校に行く日だということで配慮してくれたのだろう。 「蛍は準備があるから、朝食は七節が用意すると」 「準備……? うん、分かった。着替えてから行くね」 基本的に食事の支度は蛍がしてくれるが、槐から頼まれた仕事など、他に優先すべきことがある場合には、七節が代わりにしてくれる。朝起きられなかった場合を除いて、芹も配膳など、自分にできることは手伝うようにしていた。 槐の屋敷では袴ばかり身に付けていたので、洋服を着るのは先日実家に帰った日以来だ。制服を着るのも久しぶりだと思いながら、ワイシャツのボタンを留めていく。黒のスラックスを履き、ベルトを締めて部屋を出た。
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