文字をえがく、

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 今日も僕は世界を作っている。 「冬を迎えた君を埋めよう。  やがて死を蓄えた春が芽吹き、  くるおしい命の夏が来て、  父の愛する枯れる秋がくるのだから」と、  長く連れ添った子どもが僕の世界を華やかに歌う。  あの子の声が舞台の外まで響いて、  誰かのこころを震わせたとき、  僕はほのかに安堵する。  誰かの優しい声が欲しいなんてわがままだけれど、  その声で救われることもある。  今日も僕は世界を作っている。  どれだけ作っても道は見えず、  焦りは募り、恐怖は積み重なって、  僕の世界の邪魔をする。  どれだけ成功していても、  上へ上へ、上へと階段が続いていて、  自分のちっぽけさに足がすくむ。  僕の舞台は薄暗がりに包まれていて、  灯りがなければ歩けもしない。  そんな時、後ろから声が掛かる。  登場人物たちに背を叩かれながら、  時に階段に腰かけて語らいながら、  僕は何度も何度も立ち止まり、  文字のけものの衝動に目を覚まし、また歩き出す。    今日も僕は世界を作っていく。  いつかこのことばの巡礼を終えた時、  何かしらの答えが見つかると信じて。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加