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二列右の大野くんの席に、人が集まるのを避けるようにして、私は真奈美の席にお弁当を抱えていった。
「あ、ごめん咲。私今日は、お昼一緒に食べられない」
真奈美は、顔の前で手を合わせた。
「えっ、そうなの」
思わず不安そうな声を出してしまう。
いつもお昼は真奈美と二人で食べているから、真奈美がいなかったら、クラスで一人ぼっちだ。
そう思ったのが伝わってしまったのか、真奈美は申し訳なさそうな顔をした。
「個展までもうすぐだから、休憩時間返上で美術室にこもるんだ。ごめんね!」
「ううん、大丈夫」
急いで笑顔を作る。
自分が一人になるのが嫌だからって、友達の足をひっぱれない。
真奈美は美術部で、いつも頑張って絵を描いている。ちゃんと応援してあげたい。
「そう? よかった。どこかのグループに入れてもらいなね」
言うが早いが、真奈美は美術室へかけだして行ってしまった。
教室に取り残されて、周りを見渡すと、みんないつものグループで固まっている。
「入れて」なんて言いにくいなぁ。
笑顔でノリよくっていうのが、少し苦手。だから、近寄りがたいとか、言われちゃうんだけど。
仕方なく、一人でお弁当を持って、そっと教室を出た。
本当は全然、私は大人っぽくもなんともない。
ただ小心者なだけ。
こういうときに、私はうってつけの避難場所を見つけてあるから大丈夫。
もはや開き直っている。
二年生の教室は二階。
ここから階段を降りて、一階に向かう。でも一年生の教室には向かわない。
学校はコの字型になっていて、教室から渡り廊下を渡ると、向い合せになるように理科室だとか家庭科室だとか、そういう科目別の特別教室がある。
ささっと廊下を渡って、特別教室の方に向かう。そこの一番端にある教室だけは、いつも鍵が開けっ放しになっている。
「資料室」とプレートのかかる、その部屋にするりと入り込んだ。
地図や歴史の資料本がたくさん置いてある部屋。
そっと入ると、いつもほっとする。
少しほこりっぽいけど、私が落ち着ける場所。
一人でいたいときに、こっそりここに来て過ごす、避難場所。
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