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波流目線1
転校初日。少しだけ緊張している。
新しい生活は、ちょっとだけさみしい。父さんと二人で、家事も自分でやらなきゃいけない。仲が良かった友達とも離れてしまった。
でも、誰も「あのこと」を知らないところに行ける嬉しさもあった。前の学校では、さんざん「あのこと」でからかわれて、うんざりしていた。
「天使みたいに、強くて優しい男になりなさい」。
小さいころからの母さんとの約束が、頭に浮かんできて、思わず舌打ちした。
その天使のせいで、俺はからかわれるわ、父さんと母さんは離婚するはめになるわ、最悪だったっていうのに。
職員室に向かう途中で、女の子が人気のない資料室とかいてある教室に入るのが見えた。肩に柔らかくかかる髪がふわりと揺れる。
背が高めで、ちょっときつそうな目をしているのを見て、授業でもさぼるのかな、ってなんとなく気になった。
扉の外から覗くと、その子は棚から漫画を取り出している。
よく知っている漫画だ。「守護天使リク」。
見慣れた絵だから遠くからでもすぐに分かった。
見間違えるはずもない。
なんで、その漫画なんだよ……。
この学校でもか、とうんざりしかけて、思い直した。
でも、中学生でちゃんと読んでるやつは初めて見た。前の学校で、「あのこと」をからかったやつらは、漫画自体は読んでいなかった。
何で、そんな子どもの漫画を読んでる?
思わず、扉を開けて声をかけようとすると、女の子は驚いたように言った。
「て、天使」
俺の方がびっくりした。
なんで、初対面で、俺が天使だって、思ったんだろう。
「あのこと」。
つまり、俺が“守護天使リク”のモデルだって……。
知ってるってこと?
俺の、母さんがその漫画の作者だって、知っているのか?
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