第三部

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彼が関わったメンズボディーローションは驚異的な売り上げを見せ、他社を圧倒する。メンズ製品はもう街にあふれており、いくらミント王子による芳しい爽快なローションを開発したとしても、そこまでの売り上げは見込めないはずだった。そこを他社と差別化を図るべく、涼介はある提案をした。 「どうでしょう。ペアローションにしてみては?」 「ペア?」 「ペアねぇ」 開発チームの社員にメンズのみならず、それに添ったレディースのローションを同時発売することを進言する。 薫樹をはじめとする、チームのメンバーは有能ではあるが、社交の部分では著しく欠けがあり、開発することに関して長けてはいるが企画には向かない。 早速、涼介の提案は会議に掛けられ、すんなり通る。 開発が二種類になるので社員たちは過労気味ではあったが、黙々と作業をこなす。 こうしてできたのがペアローション『ナギ&ナミ』だ。主にニホンハッカ(ジャパニーズ・ミント)を使用し、男性用のナギには清涼感を強くし、女性用のナミは潤い成分を多く配合している。ペアローションではあるが個別販売にした。 カップルで使用したり、プレゼントに使われたりとそれぞれ偏ることなく売れ行きは上々だ。 会社から十分な報酬と評価をもらい、涼介はまた『ミント王子』の名称を確固たるものにする。 もう会社との契約は切れているが、こうして開発中の研究室以外、自由に出入りできることになっている。 「兵部さん、どうですかー、一緒に僕のプロデュースしたカフェ行きませんか?」 一応終業時刻を待ち、涼介は薫樹を誘う。 「んー、そうだな。今日はキリがいいからそうしてみようかな」 二人連れ立っていると帰宅する女子社員たちはザワザワざわめいている。 「まだまだミント王子、うちに来てくれるのかなあ」 「あーん、かっこいいー」 「匂宮さまはクールで素敵だけど、王子は甘くて母性本能くすぐられちゃうー」 「二人並んで歩いてるとほんと貴公子って感じよねえ」 「はあー。いい香り」 やはり残り香を嗅ぎながら女子社員たちはうっとりして後姿を見送り続けていた。
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