第三部

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「彼女何しに来たんですか?」 「ふーん……。彼女自身もどうすればいいのかわからないんだろう。彼女は天涯孤独でね。亡くなった恋人以外に親密な知り合いがいないんだ」 「兵部さんは親密なんですか?」 「いや。一応友人かな。出会った頃は彼女とその恋人と一緒に過ごすこともあったが」 「うーん。なんかイマイチ分かり辛いなあ。なんで恋人なんです? 夫じゃなくて」 「大きな声じゃ言えないが彼女の恋人はジャン・モロウ氏なんだ」 「ええっ!? あの!? 香水王の!?」 「うん。清水くんならフランスにもいたし、知ってると思うが彼は結婚していたんだ」 「あらまあ。でも離婚すればいいじゃないですか、そんなに長く恋人関係を築いてるんなら奥さんに愛情なかったでしょ」 「なかなか簡単にはいかないようだったよ。宗教上の問題もあったしね」 「ああ、まあ、あの辺の国はそこら辺が大きい壁になりそうですねえ」 「しかも、環は売り出し中だったから、スキャンダルもまずいしね。それで僕がよく一緒に関わることになっていたんだ」 「はあー。兵部さんがまさかのカモフラージュとはねえ。すごい世界だ」 「ジャンの奥方が亡くなって、再婚するかと思ったがもうそのころには環は有名になっていてね。ジャンの愛人になって仕事を取ったと中傷されることもまずかったのだろう。結局二人は親密な関係で終わったんだ」 「なるほど。なんだかかわいそうですね」 「ん。性格が悪いわけじゃないから、優しくしてやって欲しい」 「え? あ、はあ。そんな機会があったらですけどね」 残りのミントアイスティーを飲み干し、二人は女性客の騒めきに見送られながら店を出た。
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