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「ありがとう。どうぞ、そこへ。今お茶を頼むわ」
「あ、いや。お構いなく。足、痛む?」
「いえ、もう、ほとんど痛くない」
「そっか、よかった。しかしシンプルな住まいだねえ。もっと贅沢してても良さそうなのに。ドレスがバンバン飾られててさー、なんかごちゃごちゃアクセサリーがあって、化粧品臭いかと思ってたよ」
「くふっ」
初めて環が笑う。思わずそのあどけない笑顔に涼介は見入ってしまった。
「私、服とアクセはあんまりないの。靴だけはいっぱいあるけど」
「ああ、そうなんだ。君の足小さいからシューズなかなかないでしょ」
見ないようにしていた環の足を見てしまう。
「そうね」
「綺麗な……靴だ。可愛い足だ……」
「ありがとう。ジャンもよく言ってたわ」
「そ、そうか」
ジャンの名前が出たことで涼介は本来の目的を思い出す。
「あ、あのちょっと聞いておきたいんだが、環さんは兵部さんとどうしたいのかな?」
「どうって?」
「うーん。彼には今恋人がいてね。なんていうか環さんがそのー、なんていうか」
「私が薫樹を奪うと思ってるの?」
はっきりという環に涼介は言葉を濁す。
「ジャンと私の関係を知ってるから、そう思うの? それともそういう女に見えるの?」
「いや……。そんな風にはとても見えない。なんていうか思いたくないんだ」
「あなたっていい人なのね。育ちがいいのかしら。あまり人に悪意を持たないのね」
「さあ、どうだろうか……」
涼介は狭い部屋で環とその香りに圧迫され息苦しさとめまい、そして喉の渇きを感じる。
「ねえ。私のとこどんな女だと思う?」
「どんなって……。最初は素っ気なくて高慢そうだと思ったが……今は……無防備で、あどけなくて、少女のようだ」
「少女……。ジャンはよく私をプリンセスって呼んでいたわ」
「そうか……。そろそろ帰るよ」
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