第三部

36/67
前へ
/168ページ
次へ
「ありがとう。どうぞ、そこへ。今お茶を頼むわ」 「あ、いや。お構いなく。足、痛む?」 「いえ、もう、ほとんど痛くない」 「そっか、よかった。しかしシンプルな住まいだねえ。もっと贅沢してても良さそうなのに。ドレスがバンバン飾られててさー、なんかごちゃごちゃアクセサリーがあって、化粧品臭いかと思ってたよ」 「くふっ」 初めて環が笑う。思わずそのあどけない笑顔に涼介は見入ってしまった。 「私、服とアクセはあんまりないの。靴だけはいっぱいあるけど」 「ああ、そうなんだ。君の足小さいからシューズなかなかないでしょ」 見ないようにしていた環の足を見てしまう。 「そうね」 「綺麗な……靴だ。可愛い足だ……」 「ありがとう。ジャンもよく言ってたわ」 「そ、そうか」 ジャンの名前が出たことで涼介は本来の目的を思い出す。 「あ、あのちょっと聞いておきたいんだが、環さんは兵部さんとどうしたいのかな?」 「どうって?」 「うーん。彼には今恋人がいてね。なんていうか環さんがそのー、なんていうか」 「私が薫樹を奪うと思ってるの?」 はっきりという環に涼介は言葉を濁す。 「ジャンと私の関係を知ってるから、そう思うの? それともそういう女に見えるの?」 「いや……。そんな風にはとても見えない。なんていうか思いたくないんだ」 「あなたっていい人なのね。育ちがいいのかしら。あまり人に悪意を持たないのね」 「さあ、どうだろうか……」 涼介は狭い部屋で環とその香りに圧迫され息苦しさとめまい、そして喉の渇きを感じる。 「ねえ。私のとこどんな女だと思う?」 「どんなって……。最初は素っ気なくて高慢そうだと思ったが……今は……無防備で、あどけなくて、少女のようだ」 「少女……。ジャンはよく私をプリンセスって呼んでいたわ」 「そうか……。そろそろ帰るよ」
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

547人が本棚に入れています
本棚に追加