第三部

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週末になり、薫樹のマンションに芳香が訪ねてきたが、うまくいかない調香のせいで珍しく二人の時間はぎくしゃくしている。 寡黙に考えている薫樹を目の前にし、芳香は居心地も悪い。自分の存在が邪魔ではないかと声を掛ける。 「あの、薫樹さん、サンドイッチ作っておきましたから後で食べてください。私はこれで帰ります」 「ん? どうして? なぜ帰るんだ」 「あの、忙しそうだし。邪魔したくないので」 「ああ、すまなかった。せっかく君と過ごせる時間なのに。上手く気分転換できなくて……」 心から申し訳なさそうに思っているような薫樹に芳香は慌てて「こっちこそ、すみません。謝らないでください。――ああ、どうやったら気分転換できるものですか? 私にできることがあればなんでもしますよ?」 黒い目でまっすぐ見つめてくる芳香を薫樹は愛しく思う。 「君が側にいるだけで安らぐよ。不思議だ」 「え、あ、そうですか。それなら嬉しいです」 頬を染める芳香は嬉しそうで、ふわっと彼女の体臭が薫樹を包んだ。 「お願いがある。――匂いを嗅がせてくれ」 「えっ?」 きょとんとする芳香の手を引き素早く薫樹は口づけをする。もう彼はいきなり匂いを嗅いだりしない。最初に必ずキスをする。 「んんっ、うふぅ」 甘いキスを交わすと薫樹は随分と慣れた手つきで、芳香のニットのトップスをめくり上げ、ブラジャーを片手で外す。 「あっ」 すぐに胸の中に顔をうずめ、両乳房を揉みしだきながら薫樹は深呼吸する。 「この胸の間の香りは優しく甘い」 「あ、あ、あん」 匂いは部位によって異なるらしい。
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