第三部

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「やっぱり、君はシベット(ジャコウ猫)だな」 「ジャンもよく私の足の匂いを嗅いで調合してたわ」 「そうだろう。この香水は基本的にこのシベットの香りだ。それと君の上半身から感じられるクローブ(スパイス)の香りが混じって香水を完成させているようだ」 「そうなのね。ジャンは私の足しか嗅いだことがないからなのかしらね」 「ん? そうか」 恋人同士であれば全身の香りを嗅いだことがあるだろうと普通なら気づくのだろうが、薫樹はそのまま納得しただけだった。 そんな世間の一般的なことにまるで関心を寄せない薫樹に環は安心感を得る。 「じゃあ、用事はそれだけなの。帰るわ」 「おかげですっきりした」 「そうそう、その『KIHI=貴妃』は薫樹が手を加えたらもう『KIHI=貴妃』じゃないから『KOMACHI=小町』になるならそうして」 「うーん。なかなか難しいな。元がジャンの作品だけにな」 「ふふ、じゃ、よく考えて。私はもう渡したから。――じゃ」 環は随分と軽くなった足取りで去って行く。ふと薫樹は彼女の雰囲気が変わったような印象を受けていた。
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