第四部

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夕方、チャイムが鳴り、出ると薫樹が立っていた。 「え、し、薫樹さん、どうしてここに?」 芳香のアパートの住所を教えてはいたが、小さく狭い部屋なので薫樹を招いたことはなかった。 「お邪魔していいかな」 きちんとスーツを着て、光沢のある綺麗な紙袋を下げている。 「えっと、狭いですけど、どうぞ」 断る理由が見当たらず芳香は薫樹を部屋に招き入れるとふわっと部屋中が森林浴のような香りに包まれる。 「ふぁあ、いい香り……」 一瞬、ぼんやりとしたが薫樹を促し、藍染の座布団を出して座らせる。 「いい部屋だな」 「え、そうですか?」 「うん、こざっぱりとして」 「狭くて物がないだけなんですけどね……」 1DKのアパートは必要最小限のものしかなかったが、こまめに掃除され、清潔感があり、生成りと藍色で構成された部屋は薫樹にとって居心地がよいらしい。 「清水君と環の結婚式はなかなかよかったよ」 「へえ、社交界みたいなんでしょうねえ」 芳香と薫樹は二組の結婚式の感想をそれぞれ言い合った。夢見るようなうっとりする芳香の表情を見ると薫樹はなんだか身体が熱くなるのを感じ、ネクタイをほどいてジャケットを脱いだ。 「あ、それ、かけますね」 ハンガーを出し、ジャケットを手に取るとする芳香の手を薫樹は握る。 「あ、あの」 「芳香」 グイッと引っ張られ芳香は薫樹の胸元に抱かれる。ふわっと香りに包まれながら、唇も包み込まれ甘い口づけが交わされる。 「あっ」 薫樹は芳香のカットソーをブラジャーごとめくり上げ、胸の間に顔をうずめる。 「あ、やっ、い、きなり、だ、だめ」 「なんだか今日は待てない」 いつもよりも力強く両乳房を揉みしだかれ、つんと張り詰めた乳頭を舐められ甘噛みされると芳香の腰の力が抜けてしまった。 「あ、んん、だ、だめ……あ、ん」 部屋に怪しい香りが立ち込め始める。狭い部屋はセクシーな麝香の香りで満ちてきた。
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