第四部

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ラブローションで肌と肌は滑りよく、結合部分は卑猥な水音をたてる。 「あっ、なん、か、で、出ちゃう、うぅっ」 「出る、のか。出したら、いい――んん」 ぎこちない動きが油を注された歯車のように規則正しく、一定のリズムを刻む。 「も、もぅ、だ、め、あっあっ――」 「――」 芳香の終焉に向け、薫樹は動きを早めると彼女の内部の痙攣が伝わってくる。 「あううっ、ふっ、ううっんん――あ、ああん」 「くっ、うっぅ、むっ、うぅ――」 数秒遅れて薫樹も身震いし、放出した。 身体を重ねたまま、離れず口づけを交わす。 パウダリーで濃厚な花の香りが段々と弱まり、深い森林の湿り気を帯びた空間に変わっていく。 「芳香。とてもよかった」 「私も、こんなに気持ちのいいことが世の中にあったんですね」 「うん。独りではとても知りえなかったな」 激しい時間の後ゆったりとクールダウンさせるようにお互いの身体を撫で合い、感想を言い合った。 「シャワーする?」 「そうですね。結構汗かくものですね」 「君の匂いはソープで洗いたてのようなのに。全く不思議なものだ」 流すのが名残惜しいように薫樹は芳香の胸元の香りを嗅ぐ。芳香は薫樹のてのひらを頬に当て指先を鼻先で弄んでいる。 二人の香りは洗い流されるが、今やすぐにでも生み出される名香になっていた。
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