第四部

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「機織りの音だ」 ガサガサと草をかき分けると、開けた土地に出、かやぶき屋根の古民家が現れる。 「うわあ。こんなお家、雑誌でしか見たことないやあ」 下から上まで見上げていると、薫樹がガタガタと引き戸を引き、土間の玄関から声を掛ける。 「帰ったよ」 しばらく待つとするすると和服を着た女性が「あら?」と声をあげた。 「ただいま、母さん」 「おかえり……」 一つにまとめて結い上げた髪の毛を触りながら薫樹の母、瑞恵は芳香に目を止めた。 「まあっ! 今日だったのかしら?」 芳香は頭を下げ「は、初めまして。柏木芳香と申します」と挨拶をすると、瑞恵は「まあまあっ! 可愛らしいお嬢さん」とすぐさま近づいて芳香の手を取る。 するっと滑らかでしっとりした手に芳香はびくっとするが、瑞恵の吸い付くような肌が彼女の手にまとわりつく。 「な、なんて美肌……」 父親の触覚がすぐれているということがよくわかる。恐らくこの肌の質感は薫樹の父親にとって最高とみなされたものなのだろう。 「母の瑞恵です。どうぞ、どうぞ。おあがりになって」 薫樹の色の白さは瑞恵から受け継いだものだろうか。顔立ちは薫樹よりももう少し柔らかく、丸い瞳にぽってりとした丸い唇だ。 客間に通されじっと待っていると、和服姿の男性が腰を押さえながらやってきた。 「あたた。お帰り、薫樹」 「ただいま。会ってほしい人を連れてきました」 「は、初めまして。柏木芳香と申します」 瑞恵にしたように同じく名前を告げ、正座を正す。 「私は父の兵部絹紫郎です。薫樹が女性を連れてくる日が来るなんてなあ」 「ほんとですね。薫樹はこだわりが強い子ですからねえ」 絹紫郎と瑞恵は芳香がどんな女性かを、薫樹の結婚相手にふさわしいかなどは全くお構いない様で、連れてきたと言うだけで満足らしい。
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