第四部

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父親の絹紫郎と薫樹は顔立ちがよく似ている。眼鏡をかけておらず、着流しの紺の和服が良く似合っていて品よく美しいところがそっくりだ。違いと言えば少し日に焼けていて精悍な雰囲気を持つところと、紫がかった漆黒の絹糸のような艶やかな長い髪を一つに束ねていることだ。 自分の父親と同じ人間とは思えないと芳香がぼんやり眺めていると、瑞恵が「どうしましょう」と声をあげた。 「どうかしたの? 母さん。お茶くらい出してくれないかな」 「あらっ、出してなかったわね。ふふふ」 「で、どうしたの」 瑞恵は再度ハッとし慌てて言う。 「今日ってわかってなかったから、何の食事の用意できてないわ」 「うーん。うっかりしていたな……」 「……」 慌てているようだがおっとりとした二人はそれほど動揺しているようには見えないが瑞恵は「困ったわ」を連発している。 そこへ外から男女の声がかかった。 「ただいまー」 「ただいま帰りましたあー」 薫樹の兄、透哉とその妻、鈴音だった。
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