第四部

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薫樹のマンションに入ったところで電話が入り少し帰宅が遅くなると言われた。 部屋に入る前であれば、外で時間をいつもつぶすのだが、今日は部屋に入った後だった。 がらんとした無機質な部屋は素っ気なく芳香を迎える。ソファーに腰を下ろし、薫樹に来ているというフランス行きの話を考える。 「フランスなんて……」 フランスで生活することなど全く自信がない。今日、薫樹はこの話を聞かせてくれるだろうか。 実家から帰ってやっと二人でゆっくり過ごせる時が来たが、フランス行きの話が気になってしょうがない。 薫樹は帰宅すると真っ先に芳香を抱こうとするだろう。真菜にこの話を聞くまでは、芳香も薫樹に真っ先に抱いてもらいたいと思うだけだった。 気を重くしていると、ドアの開く音がし、スーッと静かな足音が洗面所へ向かい、水が流れる音が聞こえた。 薫樹が手と顔を洗い、涼介にもらったマウスウォッシュでうがいをしているのだ。 芳香はそっと両手で口を覆い、自分の息を確かめる。自分もさっき使ったばっかりのミントの香りが残っていることに安心して薫樹を迎えるべく、ソファーから立ち上がった。 リビングのドアが開き、スッと薫樹が入ってくる。スーツに一つの乱れもなく、眼鏡を少しだけ直し、美しい、薫り高い薫樹が手を広げる。 「芳香、ただいま」 「おかえりなさい」 芳香は薫樹の胸に飛び込み、今日の香りを吸い込む。エキゾチックでスパイシーだが品よく高貴な香りは『TAMAKI』のようだ。 頭の片隅で『フランス』の文字がよぎるが、貪るような口づけをする薫樹に応じてしまい、そのままソファーに雪崩れ込んでしまった。薫樹の指先はもう芳香の尻の割れ目をなぞり、素早く性感帯をピンポイントで愛撫し、蜜を溢れさせる。 やがて、芳香は我を忘れるような声をあげることになる。
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