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実際、フランスへ行くことに薫樹は魅力を感じていない。断ることにも何の未練もない。しかし芳香の反応を見ると自分の選択は普通ではないのだろうと考えた。だからと言って考えが変わるわけではない。
フランスで仕事をすると、有名になり名声も得られ、今よりも経済的に豊かになるだろう。ただ調香するものが、会社の要望であり、自分の意思がどれだけ通るかはわからない。根本的に日本人の自分とヨーロッパ人の求めるものが違う故に摩擦も多く、おそらくは調香ロボットのようになるだろう。
芳香の麝香に触れ、ボディーシートを作り上げ、芳香との甘い夜のためにルームフレグランスやラブローションを作ったことを思い出す。
「楽しいよ。君といると」
「薫樹さん……」
愛する恋人がいて、親しい友人もでき、まだまだ目標もある。これ以上何も望むことはないと薫樹は満足して芳香の身体を引き寄せた。
二人の間には芳しい香りが満ちている。
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