第四部

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更に年月が過ぎると二人に男児が授かるが、やはり兵部家の男児らしく、その子は味覚に鋭い子供になる。 おかげで芳香は非常に手を焼く。 「きゃっ、この子ったらまた離乳食をイヤイヤしてる……」 「ん? ダシでも変えたのか? いつもより魚の匂いが強いな」 「ああ……。鰹節切らしちゃって、あご(トビウオ)だしだけにしたんですよねえ……」 「フフ。露樹は舌が肥えているようだな」 「はあ……。まだ一歳なのに……」 芳香はため息をつきながら、露樹の機嫌を取るべく彼の好きな薄めたメープルシロップをひとさじ舐めさせ、また離乳食を口に放り込む。 「ぶぶっ、むうっ、まんまっ」 なんとか食べてくれるようだ。ため息をつく芳香の側で薫樹は彼女の香りを嗅ぐ。 母になった芳香は麝香に乳香とバニラが混じった香りを放つ。 薫樹は彼女の香りに満足し、次なる香りの目標を立てる。息子の露樹は乳とシロップの甘ったるい香りをさせ、抱き上げる芳香の香りと混じりあい更なる安心する香りへと変化する。 「素晴らしいな」 薫樹は最後に『愛』と名付けた名香を生み出した。 優しい陽だまりの中で永遠の安心感を得られるようなこの香りは、やがて世界中を満たす。 そして、抱き合う薫樹と芳香は永遠に香りを創造し続ける。 終わり
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