第一部 

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「何か飲む?」 「あ、いえ。今はいいです」 白いバスタオルを巻きつけ、立ち尽くしている芳香の手を取り薫樹はベッドに引き寄せる。 「まずはキスからだったな」  そっと目を閉じる芳香の唇に薫樹はそっと唇を重ねる。(柔らかいな)  初めて触れる女性の肌は薫樹にとって未知の領域ではあるが、香りほど探求心をくすぐられることはなかった。しかし唇を重ね、マニュアル通りに舌を絡めているとある変化に気づく。(ん?)  芳香から何か嗅いだことのない香りが漂っているのだ。(どこからだ?)  非常に淡いその香りはどこが発生元かわからないが、足ではないようだ。口づけをやめ、彼女の首筋に舌を這わせながら耳たぶの裏の匂いを嗅ぐ。(ここじゃない)  腋の下の匂いを確認したかったが、さすがに常識的に考えて芳香が嫌がるだろうと思い、手にすっぽりと納まる乳房を揉みしだきながら桃色の尖頭を舐め、吸い上げる。 「あぁ、はぁ」  甘い呻き声が聞こえ始めると、一段と謎の香りが強くなった。(ふむ)  どうやら快感を得ると強く芳香(ほうこう)するようだ。女性経験はないが薫樹には本能的に汗腺が性感帯であることを知っている。汗ばみ湿り気を帯びるところを探ると芳香はより甘い声をあげる。ウエストから下腹部へ下り恐らく一番敏感であろう場所へ到達すると、芳香が突然強い力で足を閉じ始める。 「あ、あの、そこは、だめ。薫樹さん、お、お願い」 「恥ずかしいのか」 「はい……」 「僕は足の匂いまで知ってるんだぞ。今更何を」 「そ、それでも、そこは……」  泣きそうな声で言う芳香に薫樹は少しばかり同情の余地を見せたが、香りへの探求がそれを許しはしなかった。 「芳香。ここからすごくいい香りがしてるんだ。これこそ、名香だ」 「え、やだ、そんなとこから? やだぁ」  半泣きの顔を見ると志が折れそうだ。しかし足の付け根から甘い麝香の香りが薫樹を誘う。するっと指先を滑り込ませ茂みを優しく撫で、いまだ柔らかい小さな花芽をさする。
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