第二部

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会社の研究室で薫樹は自分の指先を嗅いでみたが、匂いがわからない。 「本当に匂いがあるのだろうか?」 一度指先の香りを調べるため、識別装置にかけてみたがなんの成分も出てこなかった。 「匂いがわからないなんてことがあるのだろうか」 芳香がいい匂いだとうっとりするが、今まで誰にも指摘されたことがない。自分の体臭は自分ではよくわからないというが、どうなのだろう。 椅子に腰かけ、首をかしげているとノック音が聞こえたので「どうぞ」と招いた。 「失礼しまーすっ」 「ん? 野島さんか、何か用?」 「えー、用っていうかー、会いに来ただけです」 「勤務中なんだが……」 薫樹の話を聞かず、野島美月はきょろきょろ研究室を眺める。今、研究開発部は一つのプロジェクトを終えたところで、薫樹以外の開発スタッフは長期休暇中だった。 ボディシートの売れ行きが良く、会社は野島美月を優遇しているため、このように社内をぶらつくことを戒めるものが誰もいないのだ。 「ここでいろんな香りを作るんですねえー」 「うん、そうだ」 「ねえねえ、兵部さん。今度二人でどっか遊びに行きません?」 「ん? なぜ君と二人で行くんだ」 「もっと、ワタシのこと知って欲しいんです。仕事じゃなくて」 美月は薫樹をまだ諦めていなかったようだ。しばらく動きがなかったのですっかり薫樹は美月のことを忘れていた。
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