第二部

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「僕には芳香がいるのを知っているだろう? 悪いが君を知る理由がない」 ぷうっと膨れながらも美月は食い下がる。 「別に、彼女と別れて、ワタシと付き合ってって言ってるんじゃありません。薫樹さんが好きなのでそばに居たいだけなんですぅー」 森の妖精の姿からコケットリーなフランス人形に変わって迫ってくる。 「簡単に好きだというが、君は僕のどこが好きなんだ?」 「えっとぉー、カッコよくてー、頭が良くて、とっても素敵です」 「格好良くて頭がいい男なんかいくらでもいるだろう」 「違うんですっ。兵部さんは、なんていうかワタシの周りにはいないタイプでぇ」 「周りにいないタイプか――」 「そうです、そうなんです。トクベツなんです」 「うーん。それはただ新鮮なだけじゃないだろうか。僕みたいなタイプは案外多いよ。大学時代、みんな僕と似たような感じだったしね」 「えー。だって兵部さんの彼女だって、他にない香りの持ち主なんでしょ?おんなじじゃないですかあ」 「確かに彼女の匂いは特別だった。だけど中身はごく平凡だと思う。彼女の香りには抗えない魅力があるがもし違う性格だったなら彼女自身を好きになっていないだろう。顔立ちの話をすれば、君の方が随分と美人だ。芳香は――地味で辛抱強そうな犬――みたいだな。プッ、フッ」 薫樹は嬉しそうに思い出し笑いをする。 「え? デレてる――のか、な……。ちょ、ちょっとイメージ狂ってきたかも……」 クールで大人っぽく紳士な薫樹がニヤニヤしているのを見ると美月の気持ちがいきなり冷めた。
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