第二部

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「この前作ってくれたバジルのパスタは薫り高くてとても美味しかったな。わざわざパルミジャーノ・レッジャーノの塊をスライサーでスライスしてのせたんだ。粉チーズを買わないところを見ると案外、食にこだわりがあるのかもしれないな」 「はい? パスタ?」 「ああ、彼女は和食の方が得意みたいだな。薄味でね。だけどちゃんとだしをとっているんだ。野菜が中心で身体にも良さそうだよ」 「えっとぉ、なんか――わかりました。なんか違うなーって。しばらくお仕事頑張ることにします」 「ん? ああ、そう? それがいいよ。君にはもっと活躍の場がありそうだし、人気も出るだろう」 「あ、ありがとうございます」 今まで美月に迫られていたことなどすっかり忘れた様子の薫樹に、きもちの冷めた美月は呆気にとられるばかりだった。 「じゃー、この辺でぇ」 「あ、そうだ。ちょっと僕の指先を嗅いでもらえないか?」 「え? 匂うんですか?」 「うん」 美月の目の前に薫樹は白く骨ばった指先を差し出す。首をかしげながら美月は恐る恐る匂いをスンスン嗅ぐ。 「どうかな、何か匂いがするかな」 「うーん、別になんにも」 「そうか、ありがとう」 「はーい、失礼しましたあ」 何の未練もない様子で美月が立ち去った後、薫樹は自分の指先を眺めた。 「なるほど」 自分の指先のフィトンチッドを感じるのは芳香だけなのだと納得して、ルームフレグランスの完成に向かうことにした。
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