第二部

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土産物を販売しているコーナーに立ち寄ると、薫樹が開発したボディシート『ボディーシート イン フォレスト』が置いてある。 「へー、こんなところで売られてるんですねえー」 「ああ、本当だな」 「このシートってほんと画期的ですよね。これのおかげで私の人生変わったよなあ」 感慨深そうに芳香はきちんと並べられたボディーシートを見つめる。 「今度、それに他の香りをつけることになったよ」 「ああ、そうなんですね」 「僕はそのままで、いいと思うんだが、まあ会社の意向だしね。フローラル系と柑橘系が加わると思う」 「そっかあ。じゃ、また新しいCMもできるんですね……」 「ん? ああ、たぶんね」 さっきまで明るくはしゃいでいた芳香がだんだんと暗く沈んでいく。 「芳香。野島さんのことを気にしているのか?」 「え、っと、少しだけ」 「心配ない。野島さんの件は片付いた」 「えっ?」 「彼女にははっきり断っているし、理解もしてくれたようだからもう心配しないで」 「ほんとに?」 「ん」 薫樹は芳香の手を取り、自分の指先を彼女の鼻先へ持っていく。 「いい香り……」 ハーブ園での香りも落ち着くが薫樹の指先を嗅ぐと更に芳香はリラックスする。 「この香りはどうやら君にしか感じられないらしい」 「え? うそ! こんなにいい匂いなのに?」 「うん。調べたがやはり香りの成分はないようだよ」 「えー」 芳香は信じられないという表情で薫樹の指先を嗅いでいる。 「フフ。つまりこの指先は君だけのものだ」 「あ、わ、私だけ……」 「うん。他に誰が現れても僕は揺れたりしない」 愛の告白と誓いをハーブの優しい香りに包まれながら聞く。 うっとりと酔いしれていると薫樹は耳元で囁いた。 「今夜は、君の香りを堪能させて」 芳香は甘い花の香りを感じた。
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