第三部

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明るく元気な掛け声で迎えられ、串料理屋に入る。 まだ早い時間なのに座敷は一杯でカウンターしか席は空いていないようだ。 「ああ、残念。座敷の方が楽だよねえ」 「あ、いえ。私、カウンターの方が好きなんですよ」 今でも人前で靴を脱ぐことが躊躇われる芳香にとって、座敷に案内されるより随分気が楽だ。 今日はよく歩いていたようで、肉の焼けた匂いが芳香の空腹を促す。 「お腹空いてきたなあ」 「ははっ、いっぱい食べてよ。ここはさあ、いろんな串があるんだよ。ほら、シュラスコとか」 炭火で焼かれた肉が大きな串に刺され、カップルが嬉しそうに店員から受け取っている。目の前のメニューを見ると串カツなど揚げ物もあり、焼き鳥、シシカバブなど多国籍な串料理が並んでいる。 「へえ、美味しそう」 「しかもここはね、飲み物も色々あるんだ。お酒飲める?」 「え、強くはありませんが、少しなら」 「じゃ、とりあえずモヒート二つ」 涼介が飲み物を注文し、少しずつ串ものを頼んだ。 「じゃ、かんぱーい」 「あ、乾杯」 初めて飲むロングスタイルのモヒートの匂いを嗅ぎ、芳香はそっと口をつける。 「わっ、美味しい。さっぱりしてる」 「初めてだった? ミントとラムのカクテルなんだ。本来はミントじゃなくてキューバのハーブを使うんだけど、日本じゃミントを使っててさ。俺はもちろんミントが好きだから本場よりこっちがいいかな」 「へえ。揚げ物ともあいますねえ」 「うん。この店はとくに甘さも控えめだからね」 気さくな涼介は芳香になんら緊張を与えず、楽しく朗らかだ。芳香には今まで恋人はおろか友人もやっとまともに出来たので、異性の友人はもちろん居ない。男の友達とはこういう感じなのかなと思い始めていた。
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