第三部

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「ねえねえ。兵部さんとの馴れ初めは?」 唐突な質問に芳香は手が停まる。 「え、な、馴れ初めですか……」 「うん。今を時めく匂宮さまを射止めるなんてなかなか出来ないでしょ。彼っていつもうわさが絶えないし。ちょっと前までは今売れっ子モデルの野島美月ちゃんと付き合ってたとか」 「……」 野島美月とは仕事上の関係しかなかったのにいつの間にか薫樹の恋の遍歴に加えられている。 「なんか芳香ちゃんみたいなタイプが兵部さんの恋人ってちょっと不思議だよなって」 「で、ですよね」 自分でもわかっていることなので指摘されてもおかしくないだろうと芳香は腹も立たない。 「しかも兵部さん君にべた惚れっぽいしね」 「え? ど、どこが」 「ん? 昼とかランチ行こうって俺が誘うとさ、君の料理の話を始めたり、会社にいる可愛い子を褒めても、全く興味がないみたいだし」 「そ、そうですか」 「まあ、芳香ちゃんは確かにぱっと人目を惹くタイプじゃないけど、兵部さんが選ぶだけあって奥が深いんだろうねえ」 「そんなことはないと思います……」 他所で自分の話をされているとは全く思っていなかった芳香は嬉しくもあり恥ずかしくもあるが、聞いた人は首をかしげるのだろうなと苦笑した。
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