第三部

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涼介は軽快で王子と呼ばれる割に気取ることもなく芳香は楽しく過ごせた。 帰りもアパートまで送ってくれるという。 「まだ早い時間ですから、ここで全然大丈夫です」 「うーん、兵部さんにちゃんと送り届けるっていってあるしなあ」 「いえ、ほんとに」 頭を下げて芳香は帰ろうとすると涼介が「まって」と引き留める。 振り返る芳香に「芳香ちゃん、足、痛くない?」と爪先を指さす。 「えっ」 長い間歩くのに適していないパンプスは芳香の足に靴擦れを引き起こしていた。軽く痛んではいたが気にするほどではないのに、少し違和感のある引きずった様子を涼介は鋭く見つけている。 「ダメだよ。そのままにしちゃ。ほら、そこ座って」 ひらりとスーツからハンカチを出し、道端のブロックに敷き芳香を座らせる。 「あの、何を」 「いいからいいから」 ポケットからウエットティッシュと小瓶を取り出した涼介は芳香のてのひらにそれらを置き、スッと手早く彼女のパンプスを脱がせる。 「あっ」 すぐにウエットティッシュを取り出し、爪先を綺麗に拭き上げ、今度は小瓶の蓋を開け手のひらに数滴落とし、指でかき回す。 「ペパーミントの精油で作ったアロマオイルだよ。鎮静効果もあるし、炎症も抑えるんだ」 優しくマッサージするように涼介は芳香の爪先にオイルを塗る。 「ふぁっ」 まるで上等なリフレクソロジーを受けているかのようで、気持ちの良さに思わず声を出してしまった。 「少し合わない靴で歩きすぎたみたいだね。このオイルあげるから、たまにフットバスに使ってみてよ」 「すごい。むくみが取れてる」 少し赤く膨れた足が鎮静されていく。 すっきりと軽くなった足に涼介はするっとパンプスを履かせ芳香の手を取り立たせる。 「はい。どうぞ、シンデレラさん」 「あ、ありがとうございます」 もう少しだけ送るという彼にバス停まで送ってもらい、芳香がバスに乗るまで一緒に涼介はいた。 バスの窓から振り返ると、涼介はまだこっちも見送っている。 「変な人かと思ったけどいい人なのね」 警戒心が少し薄れた芳香は楽しくて親切な涼介の好感度を上げる。そして薫樹にミントの効果を報告したいなと思っていた。
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