第三部

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――こっそりと芳香は妄想を愉しむ。 「君の足を研究させてよ」 薫樹に変わり、爽やかにミント王子に言われ検体になったと想像する。 (すっきりして終わりそうかな) 「失礼、シンデレラ」 無表情な薫樹に靴を履かされる。 (やっばーい。すっごいドキドキする) はあはあしていると真菜が心配して顔を覗き込む。 「どうかした、芳香ちゃん、顔赤いよ」 「え、そう? 今日暑いもんね」 「ん、夏日だね」 薫樹のことを考えると胸がどきどきして、彼の指先を嗅ぎたくなる。 「ねえ、真菜ちゃん、いつまで好きな人のことを考えるとドキドキするのかな。結婚してもドキドキするのかなあ」 「ふふっ、芳香ちゃんはときめいてるねえ」 「え、あ、うん」 「私はなんかときめいたことないんだよねえ」 「へー、そうなんだあ」 「うん、興奮することはあるけどね。それってドキドキじゃないよね」 「そ、そうだね、なんか違うね」 赤面する芳香に真菜はニヤニヤする。 「まあでもさ、相手のことを想う気持ちがあるのが大事じゃないかな。ドキドキでもワクワクでも」 真菜のさっぱりとした回答はいつ聞いても気持ちが良い。想う人がいることは幸せなことだと芳香は実感した。
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