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「俺も紫の上探さないとなあ」
「ふっ、芳香は紫じゃないな。どちらかというと宇治の大君かな。育てるところなんかなかったから」
「なーるほどね。対等なわけだ」
「それどころか彼女は新しい創作のヒントをくれたりすることもある。女神だな」
「はあ。ああ、確かにこの前カフェのメニュー見せたら冬のミントメニューを考えさせられたなあ。鋭いですねえ彼女」
「フフッ、そうだろうそうだろう」
薫樹の満足そうな様子に涼介は芳香を手放すことはないだろうと実感する。
「あーあ、あんないい足の娘。滅多にいないのになあ。宮様のものかあ」
「よく、足、足言ってるがそんなに珍しい足なのか」
「付き合った娘たちと眺めた数と、これからの出会いの予想で換算すると、たぶん万分の1かなあー」
「ほう、万分の1か」
「ええ、ほんとそれくらいかな」
「ふむ。僕は女性と付き合うのは芳香が初めてだが、恐らく彼女の香りは億に一つだな」
「ほええー、億に一つかあ。じゃあ、やっぱかなわないなあ。諦めます――」
「何を?」
「いえいえ、こっちの話です」
「万に一つならまだまだ出会えるだろう。希望を捨てないように。僕は芳香に出会うまで、一生独りで過ごすだろうとさえ思っていたからね」
大げさではないだろうが本当に妥協をしそうにない薫樹に涼介は自分ももう少しストイックに過ごそうかと一瞬考えたが、性格的に無理だなと思い直す。同じ調香師でも、人の口に入るものに香り付けをするフレーバリストを選んでいる時点で涼介は人と交わっていくこと、社交が好きなのだ。
「完成した。どうかな」
「どれどれ」
細く長いムエット(試香紙)に鼻先をそっと近づけ涼介は香りを嗅ぐ。
「うんっ、素晴らしい! これ商品化した方がいいですよ」
「うーん。ちょっと目的が目的だけによした方がいいだろう」
「むうっ、確かにこれじゃアダルト商品になっちゃうかなあ。――それなら、いっそ、どうです? こうしたら」
「ほうっ。ルームフレグランスよりもいいかもしれないな。流石だな。パフューマ―にはない発想かもしれない」
「お役に立てて光栄です。いつか僕も使いたいのでレシピ置いといてくださいね」
「ああ、もちろんだ」
「さて、俺、ミントティーでも淹れますよ」
「ありがとう」
色々なことにすっきり納得した涼介は心爽やかにキッチンへと向かった。
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