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満月の夜。
二匹の銀の狼は森に捨てられた人間の赤ん坊に出会った。
赤ん坊はタオルに包まれ、へその緒がついたまま草むらに無造作に投げ捨てられ、泣き声も上げない。
月足らずで生まれた赤ん坊は小さく未発達だった。
「こんなガキを産み落としやがって」
赤ん坊を車の中から投げ捨てた男は、「これであの女とも終わりにできるな」と、笑い声を残して走り去って行った。
「可哀想だが、この赤子はもうすぐ死ぬ。他の獣に喰われてしまう前に俺が喰らうか」
車を見送った一匹の大きな狼が喉を鳴らすと、それよりひとまわり小さな狼が赤ん坊に鼻を擦り寄せた。
「まだ生きてるのに可哀想すぎるわ。わたし朝までこの子のそばについてていいかしら?」
「ああ、好きにしたらいい。ダメなら俺が喰らってやるだけだ」
「わかったわ。ありがとう、あなた」
一匹の狼は赤ん坊の隣に包みこむように座り、へその緒を噛み千切ると自らの乳を赤ん坊の口に含ませた。
赤ん坊の弱々しく震えるくちびるが、一滴の乳を含むとか細い泣き声を上げた。
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