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また一滴、狼の乳が赤ん坊の口に触れる。
そして、また一滴。
どれほどそうしていただろう。
小さな紅葉のような手が微かに動くと、狼は赤ん坊を胸に包んで抱き締めた。
「ねえ、あなた。わたしこの子を連れ帰って育ててもいいかしら?」
「それはいいが、……その子は人間の赤子だぞ」
「でも、わたしのお乳を飲んだのよ。もうわたしの子供同然よ」
狼は笑った。
「はあ。おまえは昔からこうと決めたら退かないからな。わかった。好きにしたらいい、俺はかまわないさ」
「ふふっ、ありがと。あなた大好きよ」
もう一匹の大きな狼に優しく微笑んだ狼は腕の中で眠る赤ん坊に鼻を寄せそっと舐めた。
「あなたは今日からわたしとあの人との子供よ。…そうね、月が明るい夜に出会ったから『朋』と言う名前はどうかしら?いい名前でしょう?」
辺りが白く明けて行く中、銀の狼のその姿は人間の型に変わっていった。
「さあ、おうちへ帰りましょうね。あなたのお兄ちゃんが待ってるわ」
それがすべての始まりだった―――
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