デパートで･･･(短編)

エスカレーター

私は今、あるデパートに来ている。
日曜日ということもあり、デパート内は人でごったがえしている。
カップルや子供連れの客の合間を縫うように私は一人、目当ての店に向かっていた。
用があるのは２階の雑貨屋なので、とりあえず上に行くためにエスカレーターを目指して歩く。
いつもは親友の優夏(ゆうか)と一緒に来るのだが、今日はその優夏の誕生日プレゼントを買いに来たのだ。
プレゼントを渡す本人を連れてくるわけにもいかないので、一人で来ていた。
人ごみはあまり好きではないのでさっさと済ませようと、ぶつからないよう気を付けながらも早足で歩いた。
少し歩くと、２回に行くエスカレーターが見えた。
雑貨屋に向かうため、私は上に上がる方に乗った。
私のすぐ後に、制服姿の女の子が乗ってくるのが見えた。
そのままスマホを見ていたが、周りがうるさすぎて集中できない。
客の騒ぐ声や、子供の泣き声。
放送に店内BGM。
全てが混ざりあい、もはや不協和音だ。
チラリと右側を見ると、下に行くエスカレーターがある。
そこには人目を気にせずイチャつくカップルの姿。
少し呆れながら、今度は左側に目をやる。
上に行くエスカレーターがあり、そこでは小さな子供がお菓子が欲しいと大声で泣いている。
無邪気でいいなと、そのままスマホに目を落とす。
そこで私は違和感に気づいた。
右側が下で、左側が上。
じゃあ、今私が乗ってるエスカレーターは･･･。
それに、右も左も人がたくさんいるのに、私が乗ってるところには人がいない。
いるとすれば、私の後に乗ってきた女の子くらいだ。
それに気づいた途端、先程までうるさかった声や音楽が一気に消えた。
何も聞こえない。
無音。
驚いて顔を上げ、周りを見る。
だがそこには、暗闇が広がっているだけだった。
店内にいたはずなのに、何もない暗闇。
あるのは、私の今乗っているエスカレーターだけだった。