2、朝

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2、朝

僕が通う初等部と、お姉ちゃんが通う高等部は、同じ敷地内に一緒に並んでいる。同じ紺色の制服を着て、同じ長方形のツヤツヤしたカバンを持って登校する。でもお姉ちゃんは同じ時間に家を出ても、一緒に並んで登校してくれたことは一度もない。今日だって、吐く息が白くて「おぉ、白い白い」と冬を感じている僕に見向きもせず、なんならその白い息を振り切ってしまいそうな速さでズンズン歩いていってしまう。僕は必死で後を追う。 学校がすぐ目と鼻の先に見えると、歩道の右手側に大きな自転車置き場が出現する。僕がお姉ちゃんの背中を追いかけながらそこまで行くと、毎朝そこには『りそうのおねいちゃん』がいた。 「かおるおはよう。……おはよ、テツくん」 雪ちゃんが少しだけかがんで僕に顔を近づける。茶色のチェックのマフラーをくるりと巻いて前のほうに垂らしている雪ちゃん。 「おは、」 「雪ー!おはよう!ねぇ昨日9時からの山内くんのドラマ見たー?」 こうしていつも僕は存在をかき消されながら、朝が始まる。雪ちゃんは、今日も髪の毛が長くてサラサラ風に揺れている。そこだけ風の温度が少しだけあったかくなってそうな気がする。お姉ちゃんの髪の毛は揺れるほど長くないし、サラサラというよりはちょっと弱めなハリガネくらいの強度がありそうだなぁとじっと見ていたら視線に気付かれ、「なに見てんの」と思い切り叩かれた。しかも、グーで。
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