3、昼そのいち

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3、昼そのいち

ある土曜日の昼休み、普段なら午前中で授業が終わるはずが来週末に控えている全校一斉体育祭の予行練習のために僕たちは校内に残っていた。僕は友達と3人で木製の机をガタガタ鳴らしながらそれぞれの場所から引っ張ってきてくっつけた。 教室には春のおだやかな陽がさして、ふわふわと優しい風がカーテンを揺らしていた。心地よい空間の中で、「お弁当食べたらゴロゴロしたいなぁ」なんて思いながら弁当箱を開けたとき思わず、 「うわぁ、ママ…」 と、声が出てしまった。弁当の一段目と二段目の中身がどちらも白いご飯だったからだ。はっとして辺りを見回したが、幸いにも誰も僕の声に反応した人はいなかった。友達の一人は日焼けした黒い手で弁当箱を傾けながら中身をガツガツ口にかきこんでいたし、もう一人は弁当の中身が恥ずかしいものだったのか、誰とも目を合わせぬように口に突っ込んでいた。二人に聞こえるか聞こえないかくらいの声で、 「お、母ちゃん、弁当箱、間違えたっぽいから、めんどくさいけどお姉ちゃん……かおるの教室行ってくるわ」 男は大変だ。男にも女にもなめられないように気を付けなきゃいけないんだから。僕は午後も授業がある高等部の校舎に向かった。
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