10月

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10月

『そこの廊下を行く物憂げな少年。そう、あなた。あなた今、悩んでますね?』 「何やってんだ、お前?」 体育館からの帰り道。着替えるための移動中にいきなり声をかけられた。カエルと牛のパペット人形ってヤツに。 「何だよ、普通に名前で呼び止めればいいだろ」 『こういうのって雰囲気が大事だと思わない?』 「いや、思わねぇ」 『ノリが悪いなぁ』 こいつはいつも、カエルと牛のパペット人形を両手に持っている。ちなみに冬になるとカエルは冬眠するとかで牛だけになる。この人形を使って今みたいに同じクラスのヤツらと会話をする。腹話術。ちょっと変わったヤツだ。みんなからは名前ではなくパペットと呼ばれていて、それがこいつの普通。俺たちにとっても普通。今更「なんで?」なんて訊くヤツはいない。 そいつが今日、てか今、先の尖った黒い帽子と黒いマント姿でカエルと牛の向こうから俺を見ていた。 「で、何やってんの、お前」 目の前には天幕をぶら下げただけの小さな箱があった。廊下の隅に建てられたそれはまるで捨てられた猫か、宝くじ売り場のおばちゃんみたいだ。中に入ってるのはカエルと牛とこいつだけどさ。箱の上には段ボールに手書きで占いって書いてある。     
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