わたしには彼を夫と呼ぶ資格なんて無い

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 そしてその日、わたしは私の部屋を物色した。  わたしにとってその部屋は赤の他人の部屋と同じことだったから少し気が引けたけど、仕方の無いことだと言い聞かせた。  それに、目的のものは思いのほかすぐに見つかった。  勉強机の上に最新の一冊が。そして、備え付けの棚にバックナンバーが。  マメだった私が毎日欠かさずつけていたという日記。  わたしはそれを、探していた。  ……日記を読んで、わたしはあらためて知った。  私が、どれだけ彼のことを愛していたのかを。  そして同時に、彼がどれだけ、私を愛していたのかを。  日記の中では何度も、「私は彼の笑顔が好き」なのだと綴られていた。  わたしも同じだ。  彼の楽しそうに笑う声が好き。  笑顔が好き。  ――だったら。  これ以上、彼を苦しめることはできない。  それはきっと、私だって望んでいないはずだから。  わたしはそれから1週間、その日記をひたすら読んだ。  何度もなんども、時には口に出して読んだ。  そして1週間後、荷物をまとめて、彼の待つ新居へ向かった。  玄関を開けて出迎えた彼に、わたしは言った。 「記憶が、戻ったの」  その瞬間、彼は手に持っていたスマホを落として、その場で、泣き崩れた。     
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