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わたしには彼を夫と呼ぶ資格なんて無い
「綺麗な月だね。……まるで、あの時みたいだ」
「うん、……そうだね」
――あの時。
それは、わたしの知らない、あの時。
***
-10月7日-
わたしたちは今日、ある日のデートを再現している。
ある日っていうのは、私と彼が結ばれた日のこと。
つまり、彼が私にプロポーズした日のデートを再現しているのだ。
まずは浜辺でわたし特性のサンドイッチを食べて、ドライブがてらに次の目的地、環水公園へ。
「あ、また日記?」
運転席から彼の優しい声に問いかけられて、わたしは手帳を閉じる。
「うん。しっかり書いておかないと。ほら、わたし忘れっぽいから」
いたずらっぽく笑って見せると、彼も「まったく……」って笑った。
残暑も去って久しい、紅葉の候。
わたしたちは富山湾沿いの下道に、ゆっくり車を走らせていた。
「次に行ったところ、ちゃんと覚えてる?」
尋ねると、彼は「もちろん」って笑って頷く。
その笑顔が苦笑ぎみだったから、わたしは首を傾げてきいた。
「どうしたの?」
「いやぁ、我ながら、べたなチョイスだなと思って」
あー、ね。
「うん、それはね。確かに、環水公園って、べったべただよね」
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