わたしには彼を夫と呼ぶ資格なんて無い

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 よく手入れされた芝が風に揺れるざわめきと、緩やかに流れる川のせせらぎ。そして、遠くを駆け回る子供達の楽しげな声。調和のとれたそれらがまるで一つの音楽のように耳に届いて、心地いい。 「ほんとに、いいところだね」  思わず口に出た感想だったんだけど、 「いやいや、そんな初めて来たみたいな」  と彼が苦笑する。 「あ、うん。そうだね。あの時と変わらないね」 「そうだよー」  ……あせったー。  気をつけてはいるつもりなんだけど、たまにこういうことがあるからこわい。今回はなんとか誤魔化せたけど、もっとしっかりしないと。    スタバで軽く一服して、わたしたちは天門橋へ。  お互い分かれて、両側の展望塔に上る。  なんで同じ側の塔に上らなかったのかと言うと、それは「赤い糸電話」のためだ。  展望塔の間には長さ58メートルもあるという「運命の赤い糸」ならぬ「赤い糸電話」があって、県内随一の告白スポットになっているらしい。  ――ただしそれは、赤い糸電話がいつも通りであればの話。  わたしたちは糸電話は使わず、スマホで電話をつないでいた。 『切れてるね』 『……うん』  彼の言う通り、そこにはあるべきものがなかった。  繋がっているはずの糸が、繋がっていなかった。  赤い糸電話の糸は、わたしの上った塔の側で、断ち切られてしまっていた。 『まあ、でも、こうして電話すれば同じことだから』 『……そうだね』     
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