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切断面は綺麗なもので、到底自然に千切れてしまったようには見えない。
つまり、誰かが意図的に、糸を断ち切ったってことなんだろう。
――わたしたちが生きるこの世界には、他人の幸せをどうしようもなく憎んでしまう人がいて、その憎しみは時折、具体的な行動を伴って表出することがある。例えば、幸せの象徴ともいえる赤い糸電話の糸を切断する、といったように……。
そしてわたしたちはそれを、痛いほどによく知っている。
彼だって思うところはあっただろう。でも、それを口には出さず、わたしを必要以上に怯えさせないようにしてくれている。
……だったら、わたしもこれ以上、そのことは考えない。
『それで、あの日の再現ってことは、もちろんしてくれるんだよね?』
わたしの問いに、彼は『……ええっ!?』と声を上げる。
『今!? 誰か上ってくるかもしれないのに!?』
『あの時だって誰かが来るかもしれないのにしてくれたんでしょ? だったら、大丈夫だよ』
『いや、あの時は若かったから……』
『いやいや、まだたったの2年しか経ってないよ~』
『……たったの2年、かぁ』
彼が私に赤い糸電話でプロポーズしてから、まだたったの2年しか経っていない。
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