わたしには彼を夫と呼ぶ資格なんて無い

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 最後の目的地は、知る人ぞ知る隠れた秘湯、名剣温泉。  環水公園のあとに向かう場所としては明らかにミスマッチだけど、まあ、そういうところも彼らしいといえば彼らしい。  しっかりしているようでどこか抜けていて、頼りないって感じることもあるけど、そういうころが、彼のいいところなんだと思う。  少なくともわたしは、そんな彼が、好きだ。 (あーあ、本当に彼が、わたしのものだったら良かったのに)  そんな望むべくも無いことをすら、願ってしまうほどに。  ***  温泉についた頃にはすっかり夜の(とばり)が下りていて、わたしたちはさっそく温泉に入ることにした。  体を洗って、露天風呂へ。  竹林の中、丸く切り取られた夜空には、綺麗な三日月がその身を横たえていた。 「はふぅ……」  お湯につかれば全身から疲れが抜けていくような感じがして、思わず声が漏れる。  男湯の方からも、とぷんと誰かがお湯に入る音がした。  男湯と女湯の露天風呂は薄い竹の壁で隔てられているだけだから、さすがに姿は見えないけど声はほとんど遮られない。 「(あゆむ)くん?」  わたしがそう小さく確かめると、隣からは予想通り「うん」と彼の声がした。     
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