わたしには彼を夫と呼ぶ資格なんて無い

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「うん……。今日は、ありがとうね」 「こちらこそ。もう絶対に、美奈穂を危険な目には遭わせないから」  そんな、底抜けに優しくて、 「美奈穂が戻ってきてくれて、本当に、ほんとうに、よかった……」  こんなにも私のことを愛してくれている彼だからこそ―― 「うん。わたしも――、戻ってこられてよかった」  わたしは、嘘をつかなくてはならない。  ***  私は2年前、最寄り駅のホームから突き落とされて転落し、電車との接触事故に遭ったらしい。  その日は、彼との結婚式の翌日だったという。  いつものように駅のホームで電車を待っていた私を突き落としたのは、いつも同じ電車に乗っていたという女性。  動機は、私の指に、先日まではなかった指輪が嵌められていたから。たったそれだけだったそうだ。  本当なら私はその時、死んでいるはずだった。  いや、あるいはその時私は死んでしまったのかもしれないけれど、良かれ悪しかれ、わたしは生きていた。     
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