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「栄田先生、この法案の目的は何なのでしょうか?」
栄田「平穏です。」
「平穏、ですか。」
栄田「人造物を市民に供給することにより、殺傷事件率は大幅に下がるでしょう。特に児童や女性に対する暴行事件の減少に期待を寄せています。」
前野「そんなに、都合よく事が進むと思いますか?」
栄田「無差別も、通り魔も、強姦も、虐待も、全ての根幹となるフラストレーションを人造物によって発散するのです。それで、社会に平穏が保たれる。」
前野「すみません、木俣議員に質問があります。」
一連の質疑を、木俣は背もたれに掛かって静観していた。
その様は、雲の上から下界を見下ろす釈迦の様であった。
木俣「どうぞ。」
前野「この法案が、国会を通る目算はあるのでしょうか?」
木俣は、静かにマイクを手に取った。
木俣「必ず通ります。この法案は、この国の将来に必要ですから。」
前野「必要ですか?殺人の行為が?」
木俣「どうも、報道記者の皆様は、私共が作り出した物が間違っていると、世間に植えつけたいようだがね。」
前野は口を閉じ、鋭い眼差しに変わった。
前野「では、今回の法案の必要性を・・・」
木俣「人が死なずに済むんですよ、この法案が通れば。」
前野の質問を見通したかのように、木俣は力強い声で返答した。
木俣「誰かが殺される代わりに、栄田君が生み出した人造物が壊されるのです。」
前野「どうして、そう言い切れるのですか?」
木俣「誰が誰を殺すのか、それは誰にもわからない。もしかしたら、自然災害の方が犠牲者の規模を予測できるかもしれない。それくらい、人間の行動は予測不可能なのですよ。」
前野「それは、今までの制度では不備があると言うことですか?」
木俣「前野さんがおっしゃっている、制度というのは、あくまで殺人罪という名の見せしめでしょ。所詮、事後の罰則というのは、抑止力にはならないんですよ、事に殺人等の重罪であればある程ね、何故なら、加害者もまた、自ら身を滅ぼす覚悟で罪を犯すからです。」
前野「それを言ったら、全ての法律が・・・」
木俣「殺人は、駐車違反や窃盗とは訳が違う。永久に取り戻すことが出来ない行為をしてしまうのです。被害者と加害者、両方の立場から見ても。」
前野は口を閉じ、僅かに俯いた。
それを見た木俣は、優勢を確信しながら口を開いた。
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