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尾田「なんだよ。」
斉木「珍しいな、お前、この時間まだ外回りから帰ってないだろ?」
尾田「ああ、今日は早く帰れた。」
斉木「お前の所は来たか?」
尾田「何が?」
斉木「派遣体だよ、聞いてたろ?」
やっぱり、振ってきたか。
尾田は平静を装い、あきれたような吐息を一つついた。
尾田「いいや、来てないよ」
斉木「もし、お前の所に来たら、やるのか?」
俺は、斉木の言葉を聞いた瞬間、口を閉じて斉木の顔を見つめた。
どうして、俺にだけそんなことを聞くんだ・・・
斉木・・・・何か知っているのか?
尾田「ああ、やるよ、俺も、殺すという行為に興味がある。」
俺は、斉木の表情を見ずに身支度を始めた。
斉木の顔がどう映っても、俺にとっては本意ではない。
奥野「だよな、滅多にないことだよな!」
奥野、お前の判断が一番の不本意なんだよ。
斉木「ったく、お前らにはついていけねえよ。」
尾田「そうか・・・・じゃあな。」
俺は乱暴に鞄を閉じて、自分の机から出来るだけ早く離れた。
それが、二人に対する俺の気持ちだからだ。
会社から家に着くまで、様々な所でニュースを見かける。
ずっと、同じニュースが流れている。
全く同じではなくても、『それ』に対して意義を唱えるニュースや、どのように『それ』が経過をしているのか、議題はいつも同じ話。
俺はここ最近、このニュースに怯えながら過ごしている。
いつか、俺は世の中から非難される日が来るかもしれない。
非難される理由が、今、俺のアパートにいる。
俺のアパートは、会社から約一時間離れたところにある。
見た目は綺麗だけど、二階建てで、質素なワンルームの部屋。
俺は階段を上がって、一番奥の部屋に進み、部屋の扉を開ける。
玄関の奥にある居間には、明かりが点いていて、蛍光灯の真下にあるテーブルで、女が本を読んでいた。
俺は、女の名前を「ミカ」と名付けた。
俺が居間に入ると、ミカは静かに顔を上げ、ジッと、俺を見つめた。
ミカ「おかえりなさい。」
尾田「ただいま、図鑑見てるの?」
ミカ「うん、花を見てる。」
ミカは再び視線を落とし、テーブルで開いた図鑑をひたすら見つめていた。
ミカ・・・最初にここに来た時は、ミカ自身が『5817』と名乗っていた。
そして、俺に向かってこう言った。
私は貴方に、殺されるためにここに来ました。
間違いなく、そう言っていた。
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