第1章

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伏下「またあ?何回やるんだよこれ・・・」 「今後の研究に必要なので、ご協力お願いします。」 伏下は眉間にしわを寄せながら、シャツをめくり上げた。 男は伏下の左胸に聴診器を当てる。 「気分はどうですか?」 伏下「前と同じ、いい気分だよ、派遣体が完全に動かなくなるまで、全力を出し切る。こんなに快感なことだとは思ってもみなかった。」 「そうですか、それは何よりです。」 男が問診をしている最中、もう一人の男は女を シートで包み、担架に移していた。 「最初と比べて、だいぶ慣れました?」 伏下「最初も何も、俺は最初から怖気付いてねえよ。」 「そうですか、抵抗もありませんでしたか?」 伏下「ないね、初めて来た時は興奮したよ。どうやって壊してやろうかってね・・・・」 二人は一瞬、顔を見合わせた。 伏下の表情と立ち振る舞いは、他の人間とは違うと、二人は読み取っていた。 「動悸も問題ありませんね、初期の『消費』直後はかなり心拍数が高かったのですが、今は落ち着くのも早くなったみたいなので。」 伏下「だから言ったろ、早いとこ、次のを持ってきてくれよな。」 伏下の血走った目は、今でも襲いかかろうとするように、問診の男を睨みつけていた。 「・・・わかりました。迅速に手配します。」 二人の男は、女を乗せた担架を素早く担ぎ上げて伏下の部屋を後にした。 担架を担いでいる二人を、通りすがりのマンションの住民が口を抑えながら見守っている。 担架は階段を下り、エントランス、ゴミ集荷場を通り過ぎて行く。 作業員と担架は、住民には目立つ存在であった。 あれって、そうよね・・・・ 早く出て行ってよ・・・・・ 周りから湧き上がる小声も、男達には十分に伝わっていた。 マンションの端にある外来用の駐車場に、『ECCECT』と記されたワゴン車が停車している。 男達はワゴン車のバックドアを開け、担架を収容した。 バックドアを閉めると、二人は運転席に移動し、出発の準備を始めた。 「なあ、伏下っていう奴、どう思う?」 「明らかに他の消費者と違うな、最初に消費した時からそうだった。」 二人は幾度と無く、派遣体の処理を行ってきた。 派遣体の回収が主な作業だが、同時に重要な調査も行なっている。 派遣体を消費した直後の、消費者の精神状態。
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