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全ての始まりは、半年前に遡る。
俺はニュースで、ある記者会見を見た。
壇上に立っていた男を覚えている。名前は栄田敏明(さかえだ としあき)と言っていた。
半年前の話を鮮明に覚えているのは、それほど、あの法律が決まったのが衝撃的だったからだ。
衝撃の意味は、「斬新」ではなく「恐怖」。
記者会見場はとても煌びやかとは言えず、黒い背景に白いテーブル。
会見は、終始淡々と進んでいた。
「それでは、今から各社様からの質問を受けたいと思います。」
「清長新聞です。今回の『殺人擬似体験法』の発案に至るまでの、研究成果を報告していただけますでしょうか。」
壇上には長テーブルと椅子が設けられ、研究チームの栄田、代議士の木俣、弁護士の内藤が席に着いていた。
栄田「ご説明いたします。まず、この研究のきっかけとなったのが、私の横に居ります木俣先生からの打診でありました。」
「どのような打診でしょうか。」
栄田「近年における、殺傷事件の加害者の心理研究です。」
「何故、そのような研究を?」
栄田「過去、十年に遡る殺傷事件のほとんどが、被害者との因果関係が皆無という事実があります。」
「どういうことでしょうか?」
栄田「つまり、ほとんどの加害者の動機が、『殺人』という行為、そのものにあるということです。」
「それで、その『殺人』という行為に至るまでの心理研究ということですか。」
栄田「もし、加害者の殺意が、『他』に向けることが出来たとしたら、犠牲者も出ることも、加害者が罪を犯すこともなかったはずです。」
「その、『他』というのは、どういったことでしょうか?」
栄田「殺人の、疑似体験です。」
今まで、伏せていた記者達の顔が、一斉に栄田に向けられた。
「疑似体験?」
栄田「殺人、という行為は、一種の破壊行為です。人間の精神負担、つまりストレスの発散方法として、物を破壊するという行為があります。」
「破壊、ですか。」
栄田「人間は、完全な物を破壊することによって、極度に溜まったストレスを開放することが出来ます。事に、自身と同等の存在である、人間を破壊するという行為、これは究極の発散法ということです。」
「その発散法を研究した結果が、殺人の疑似体験であると・・・・・」
栄田「そういうことです。」
記者団の中から、細い腕が一つ上がった。
栄田「どうぞ。」
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