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「美宙、あんた朝ごはんは?」
「いらない。時間ない」
二階を行ったり来たりしながら身支度をしている私に、ダイニングテーブルから母が声をかけて来た。
こちらは、私よりずっと早く起きているはずなのにまだパジャマ姿だ。
頭にカーラーをつけたままコーヒーをすすり新聞を読んでいる。いつも通り。
「私今日は夜遅いから。ご飯テキトーに食べてて」
新聞から目を離さないままの業務連絡する母。名は利恵子。
「んー…、じゃあ、じいちゃん誘ってそのへんで食べてくるよ」
そう言って手を出すジェスチャーをすると、利恵子は「しょうがないわね」と言って、テーブルの上にあった長財布を手繰り寄せた。
「やったー、じゃあ焼き鳥行こっかなー」
五千円札を受け取りながら、ガッツポーズ。
「晴(せい)ちゃんのところ?じゃあ、皆によろしくね」
「うん、わかった。
あ、やばっ、もう出ないと!
これ、ありがと!」
樋口一葉をひらひらさせ、急いで玄関に向かった。
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